車道が終わり、山路を歩く。
途中でいくつかの廃屋をみながら、40分ほど石積みの斜面を昇っていく。
谷筋のあいまあいまに、かつて人が住んでいた気配が残る
谷をまわり尾根にでる。突然、視野が開ける。きれいに手入れされた家があった。
そこに90歳になる曽我部夫妻がたった2人で住んでいる。突然の訪問に、作業の手を休め、快く歓待してくれる。
正面に石鎚山をみながら縁側に座る。
山を焼き、蕎麦を植え、野菜を植え、2年耕作したら楮をうえ桑を植え、また植林をして山に返す。700年も続いた山の生活。
江戸時代に建てられた茅葺きの家も、もう手を入れるのが難しい。山の奥にはさらに廃村があるという。
曽我部さんは、健康である限り山を下りるつもりはない。街に暮らすよりも山で畑仕事をしながら暮らしたいという。それに、不思議なもので、かえってこんな山奥に住む方が、こうして人が訪ねてきてくれるという。
ひとりの人間が一生の間にできることは限られているけれど、人生というものはなかなかたいして奥が深いものだと、ウグイスの初音を聞きながら思いめぐらす。