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浅草の入山は祭りのあとの臨時休業のため杵屋で煎餅を買い、そこから西に歩きカッパ橋界隈をひやかし、小さな工場がひしめく台東区にはいる。春日通りから佐竹商店街を曲がり、その薄暗い多い街屋根(arcade)の下をぬけると、先におかず横丁がみえた。
おかず横丁のあたりは、たまたま戦災で焼け残った希有な場所らしく、所々古い建物が見うけられる。どの家もちょっとした趣を誇っている。こういうものをみるにつけ、まったくあの国難さえなければ日本はもっと豊かで味わい深い国だったのにと口惜しくおもう。戦争を始めた人間たちは文化破壊の張本人である。祖国を守る愛国者どころか、我が国の文化のなんたるかも知らぬ亡国の輩である。
ちょうど昼飯時である。そこで賃金労働者が列なす一軒の定食屋に決めた。まさに散歩の王道である。東京特有のうす桃色の身がゆるんだ初カツオを食べた。およそ世の刺身というものには、二種類あるようだ。透明で虹光りした、いわば死後硬直の筋肉切片と、酵素やなにかの働きで、すでに生体分解の進行を終えた肉塊と。
http://www.jrtk.jp/2k540/
ふとみると、我が九州高田町の筒井時正の線香花火と、荒木製蝋の櫨蝋和ロウソクがある。内野の樟脳もみつけた。あんなに小さな街から、全国唯一の看板を掲げ、堂々と東京の真ん中で勝負を挑むとはまったくたいしたものである。おもわず誇らしげな気持ちになる。それにしても、すでに3年以上この3種の産品を地道に商ってきた大學堂の「みやまの日」は、もっと知られてよいだろう。
土産でも買おうと「CHABARA」 AKI-OKA MARCHEに寄る。ここも2k540と同様、全国から集められた食の物産市なり。ずらりと並んだ棚には、意匠を凝らしたお国の自慢の一品が並べられており、寄せ集まりの東京で故郷の産品を懐かしむ人も多いのだろう、結構賑わっていた。
http://www.jrtk.jp/chabara/
出張先の千葉の落花生と、出生地の名古屋のオリエンタルカレーを買う。このカレーは名古屋オリエンタリズムの香りが濃厚に漂う一品である。懐かしいオリジナルスプーンをみつけ、これも一緒に買ってしまう。まったく故郷喪失者(dracin)たちの心のツボをついた品揃えである。そうこうするうちに飛行機の時間も迫ってきたので、いそいでE電にのった。
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