こんなときなので映画館はすいているのかなと思ったら、むしろものすごく混んでいて、チケットがかえず危うく上映時間に遅れそうだった。もっとも混んでいたのは、名探偵コナンくんとクレヨンしんちゃんだった。
バンクシーの映画を上映していたのは、皮肉なことにキャナルシティという都心のショッピングモールのシネコンだ。ここは20年前に地上げと再開発によってつくられた街である。
© Daisuky 1987 今はなき西部構内の探検部の壁
バンクシーの作品は、ただの奇をてらった落書きではない。実に知的で、洗練されたくすぐりを心得ている。そのうえ彼はネットという新しいメディアの使い方に長けている。バンクシーは人間のもっとも弱くてもっとも痛いところをわきまえている、巧妙で容赦ない確信犯なのである。
翻弄されるアーティスト・画商・警察官・市長。加熱する観客。犯罪も経済も、すべてを巻き込んで、ひとつの作品が完成する。正義。道徳。政治。資本主義。こうした人間の欲望が、いかににチンケなものであり、しかし、私たちがそこからどうしても逃れられないことをバンクシーは確信している。そして実際にその通りのことがおこる。
© Daisuky 1987 今はなき西部構内の探検部の壁
この映画作品のまなざしもいかしている。バンクシーの活動を紹介しながら、権力を持つものたちの独占がすすみ、どんどん硬直化していく世界の政治や経済の正体を、容赦なく暴く。登場する人物は、みんな正義を主張し、みんな悪に手を染める。実にみごとである。商業映画として完成されたこの映画自体もひとつの確信犯なのだ。
© Daisuky 1987 今はなき西部構内の探検部の壁
この映画を見た1%の人は怒るかもしれないが、99%の人は皮肉な笑いを浮かべるだろう・・・。そして映像の中の滑稽な人間の姿に自分を重ね、それを面白おかしく笑えるようになったとき、誰もがバンクシーになる。世界を変えるのは、怒りではなく笑いなのかもしれない。
映画の公式サイト
Dismaland