2015年9月9日水曜日

度胸試し

 去年のちょうど今頃の話だ。


 高校で防衛大学校を受けるように指導されたという。きけば国立大学を希望する生徒のほとんどが「受けることになっている」という。「防衛大に行く気があるのか」と聞くと「その気は全くない」という。どうにも要領を得ないのでさらに尋ねると、「受験料が無料だから度胸だめしで受けなさい」と担任が勧めているのだという。驚いたことに「すでに教室で願書を書き、ほとんどの生徒が申し込んだ」という。さらに防衛医大にも申し込んでいた。


 事情がはっきりしないので「いくら受験料が無料だからといって、血税をつぎこんだ国防の府に、その気もない冷やかしのような生徒を、こともあろうに度胸試しなぞで受験させるとは、なんという亡国教師だ」と怒ることもせず、「人殺しの練習をするような非人道的な組織に入れるために、おまえをここまで育てたわけではない」と諭すこともせず、ただただ、にわかに信じられない気持ちだった。


 翌日、ごく事務的に高校に電話をかけ、担任に事実関係の説明を求めた。するとその担任は、「福岡県の進学校ではどこでも普通にやっていることです」と答えた。そしてやはり「度胸づけと腕試し」と発言した。

 本当にそうなっているのだろうか。ほかの高校の実情も知りたい。いつのまに、この国の教育はこれほど劣化したのだろうか。

さらに「受験させることを、事前に保護者に確認しないのはなぜなのか」と聞くと、「模試みたいなものなので」と答えた。「教員の中に異論はないのか」と聞くと、口を濁す。どうにも担任では説明がうまくできないようで、すぐに折り返し副校長から電話がかかってきた。

 副校長は「思想的な背景はないこと」「あくまでも生徒の希望であること」「今から受験を取り下げることもできること」そしてもういちど「他の高校でも防衛大を受けさせていること」をはっきり説明した。

 ほんとうだろうか?いつからだろうか?福岡県だけだろうか?そもそも思想的な背景がなくて、どうして戦争ができるのだろうか?生徒の希望というがそれは自衛隊に入り戦地で敵と戦いたいという希望だろうか?無料だから度胸試しで受験したいという希望だろうか?

 副校長は「来年からは保護者の確認をとってから受験させる」と約束したが、その約束は守られているのだろうか?