斎場御嶽(せーふぁうたき)は世界遺産に登録されすっかり有名になったが、首里城のすぐ近くにありながら、ほとんど知られていないのが末吉宮跡。街の中にのこされた深い森に、王朝時代そのままの姿で聖地が点在する。
山を登りたくなければ、モノレールの儀保駅から行くのがよい。しかし、入り口には何の案内もなく、直感を信じて森を進むしかない。神様の声にしたがって歩くしかない。
墓地を抜け、ときおりあらわれる石畳の上をあるく。周りにはクワズイモが茂り、藪に隠れた拝所にむかう細い踏み跡が残る。
あたりの風景は、まるでバヌアツのフツナ島を歩いているようだ。とても、ここが那覇の一部とは思えない。
木々が風に揺れる。那覇の街が一望できる。空気が濃い。
森の声が聞こえる。こちらに来いという。細い道に入る。石が積まれた坂をいく。藪の道。
目の前に崖が迫る。
崖から垂れ下がるガジュマルの根。岩の割れ目からこぼれ出す清らかな水。
気づけばあたり一面に咲き乱れる紅い花。
神様の声が正しく私をここに導いた。
崖を過ぎると、石積みの社がある。ここは神が憩うところ。神の住む聖地はその社の裏にある。
屹立する岩。どこかで見たような風景。そう、宗像宮の沖の島のあの風景。
沖縄の人はこの聖地を御嶽(ウタキ)とよび、日々拝む。バヌアツでいうタブー・プレイスである。人間が畏れ敬うものはどこも同じだ。
末吉宮から下は、森の中を進む神の道ではなく、綺麗に石が敷かれた人の道が続く。
市立病院前の駅と市街地が眼下に広がる。そのとき今おりてきた石段の上に人の気配を感じた。
白いひげを生やしたおじいさんだ。無謀にも神様にカメラを向けた。しかし神様のすがたはカメラには映らなかった。