2021年6月24日木曜日

かわいい(Kawaii)の起源

 現実の三次元世界は面から構成されているのだが、わたしたちの脳は、そこに二次元の輪郭を見てしまう。曲線美という言葉からもわかるように、ある種の輪郭はわたしたちに明確な意味を与え、特定の行動の引き金となる。たとえばこの図の輪郭は、「kawaii」という信号となり、「世話をする」という行動を引き起こす。

 子育てをするタイプの哺乳類や鳥類の脳は、庇護を必要とする幼体に対して、自然に「kawaii」と反応してしまうようにできている。この「kawaii」感情から、守ってあげたい、世話をしたいという行動が生まれる。「kawaii」記号は、異種の生物でも共通した信号が使われているため、幼体が捕食者から身を守るためにも利用されている。

 たとえば孵卵後に一定期間巣の中で成長するタイプの鳥のヒナはあまりかわいくないが、ニワトリのヒヨコのようにすぐに親について餌をとるタイプの鳥のヒナはとてもかわいい。どちらのタイプも親が世話をすることから、この信号は親に対するものというよりは、捕食者に対するものであると考えられている。

 つまり、ヒヨコを食べようとした捕食者が、かわいすぎて食べられない(つい世話をはじめてしまう)なんてことが実際に起きてしまうと言うことだ。

 下側にある目と口の位置、おでこと等しい鼻の高さ、上唇から頬のあたりの盛り上がり。このあいだみた映画「JUNKHEAD」の造形もみごとな曲線だった。絵本作家の林明子やいわさきちひろも、子どもの輪郭の特徴をとてもよくとらえているといつも思う。

 というわけで、おくられてきたおさなごの写真からわざわざ輪郭だけを切り出して、なにがこの写真の最もかわいい要素なのかという分析をはじめてしまう人類学者や生物学者というものは、かくも厄介な人種なのである。